基礎研究データ品質管理研究会(ABRDM)とは

当研究会は、アカデミアにおける基礎研究データの品質管理について、主に研究公正の観点から検討し、品質管理の考え方と具体的な取り組みを研究者とともに考えていくことを目的として設立されました。基本的な考え方は以下の4点に集約されます。

  1. 不正は「無くすべき対象」ではなく「コントロールすべき対象」と認識する
  2. 研究データ管理の三原則(追跡可能性、再現可能性、プロセス管理)を念頭に置く
  3. 追跡可能性(と再現可能性)を可能にするためにはデータだけではなくメタデータの同定が大切である
  4. ラボにおける研究プロセスを明確化・標準化してシステム化する

4つめのポイントである「システム化」は少し説明が必要かもしれません。システムというと、作業が自動化された工場ラインのようなものを想像されるかもしれませんが、そうではありません。ラボにおける研究活動は、その領域によって大きく異なります。実験で扱う対象が低分子なのか高分子なのか。遺伝子レベルの実験なのかタンパクなのか、それとも細胞なのか。動物実験はマウスやラットが主なのか大型動物を用いるのか。決まった実験プロトコルや手技のものが多いのか、それとも実験系自体を構築していくことが多いのか、本当に様々です。自らのラボの実態を見直すことによってどの部分は標準化できるのか、できないのかを見極め、可能な限り標準化してプロセスを明確にし、ある程度決まった形で記録を残せるようにすることを「システム化」としています。

そして、ここは重要な点なのですが、どのような実験においても、データが発生した後から論文の図表になるまでの過程はほぼ共通です。そしてこの部分が「ブラックボックス化」しやすいのです。外れ値処理、個々のデータの採否、画像の加工など、研究に対する疑義の多くはこの部分に集中します。この部分をどれだけシステム化できるかが重要です。そしてこの過程で上記のポイント3に挙げた、データとメタデータということの重要性が浮かび上がります。余談ですが、ブラックボックス化の一番の原動力はIT環境の急速な進化です。個人のPCでも簡単に大規模なデータが保存可能になったり、高性能の統計ソフトが簡単に使用できたり、と第三者の目を通さずに論文の図表にまでもっていくことのハードルがどんどん低くなっています。

システム化の過程でもう一つ外せないことがあります。それがラボ内の研究者教育です。ラボにおける研究活動は、ある意味、徒弟制度のような部分が色濃く存在しています。一方で、前述のブラックボックス化は、それまでラボが共有していたはずの実験手法やデータ解析手法すらも個人のものに変換させてしまう可能性を持っています。このようなことをできる限り明確化し、ラボの先輩から後輩に伝えていく、その教育自体をシステムに落とし込むということが必要になってきているのだと思います。

このようなことを共に検討していく場が「基礎研究データ品質管理研究会」です。